雪山登山の基礎知識に続き、ここでは実際に雪山登山の準備段階や雪山で遭遇する様々な事象、雪山装備や技術についてより実践的な知識を紹介していく。
目次
■雪山登山の計画
■積雪期の山岳気象の特徴
■雪崩の知識
■雪山での疾病リスクへの予防策
■雪山基本装備
■雪山基本技術
①登山計画の提出
夏山でも登山計画書の提出は求められているが、特に雪山の時期は山域によっては条例等で提出が義務付けられている場合もあり、登山計画書は必ず提出するよう心掛けたい。計画書を作成することは、コース、装備や所持品、登山口までのアクセス、山小屋の有無、緊急連絡先などが整理され、下調べの漏れを防ぎ、事前のリスクの洗い出しに役に立つ面もある。
②事前の情報収集とゆとりある計画を
雪山では、積雪により登山道が消え、吹雪により視界が悪いこともある。また、降雪直後はトレースもなくラッセルを強いられることもあり、予想以上に時間を要することもある。夏山ではコースタイムどおりに歩けても、雪山ではその2倍掛かることさえある。天気予報や登山者の入山状況などに加え、登山口までのアクセスや山小屋の営業状況なども事前に情報を収集し、ゆとりある時間配分を心掛けたい。また2日以上の山行では、天候の悪化や思わぬトラブルを想定して予備日を設定しておくことも大切だ。
③事前に地形図を見ておく
雪山では、上記②のような状況から、現在地や進むべき方向を的確に知るために読図のスキルが求められる。また積雪時は夏道以外の尾根がルートになったりすることもあり、事前に地形図を見て実際の地形をイメージできるようにしておきたい。現在地を知る上では、GPSや高度計の活用もおすすめだ。
④山岳保険への加入
雪山は夏山より危険要因が多いため、山岳保険への加入は必須である。特にアイゼンやピッケルを使用する登山では、軽登山やハイキングとは別の山岳登攀を対象とする保険に加入する必要があるので注意したい。
冬期(12~2月)、春期~残雪期(3~5月)に分けて積雪期の山岳気象の特徴を把握しておく。
①冬期の気象
この時期は大陸の高気圧が勢力を増し、周期的に強い季節風を吹き出す。日本海側では風雪が強まり、太平洋側では晴天が多くなる。西高東低の気圧配置で等圧線が縦に密になると、山岳地域で風雪が強まり大荒れとなる。発達した低気圧が通過するときは、全国的に大荒れの天気に見舞われる。
<八ヶ岳や南アルプスなどの中部山岳南部地域の気象>
この時期は比較的晴天の日が多いが、晴れの日でも山には雲が掛かり、地吹雪に見舞われることもある。南岸低気圧が通過するときは暴風雪となり、降雪後は雪崩が発生しやすくなる。
②春期の気象
大陸の高気圧の勢力は徐々に弱まり、それに代わり移動性高気圧や低気圧が交互に周期的に通過するようになる。移動性高気圧に覆われるときは晴天に恵まれ、低気圧が日本海で発達すると暴風雪をもたらす。日照時間も長くなり、移動性高気圧に覆われれば、陽射しも暖かく感じられ絶好の雪山日和となる。この時期は冬と春が同居しているので気象の変化には十分注意したい。
<八ヶ岳や南アルプスなどの中部山岳南部地域の気象>
周期的な低気圧の通過により冬期よりも悪天日が多くなる。3月は最も積雪の多い時期でもある。また4月でも南岸低気圧の通過に伴い大雪をもたらすこともある。降雪時には新雪の表層雪崩が発生しやすい。
4月も後半になると冬の厳しさも遠のき、GWの頃にはそれまでしっかりと雪山の準備をしてきた人は北アルプスなどの大きな山にも挑戦できるようになり、また来シーズンから本格的な雪山を目指す人にとってもこの時期は雪山技術を学ぶいい時期でもある。
発生メカニズム
冬山の期間に発生する雪崩は、ほとんどが面発生乾雪表層雪崩である。発生メカニズムは積雪内部の雪が気温の変化や降雨により弱層となり、その上に積もった雪を支えられずに崩落するものだ。人為的な要因により誘発されるものも少なくない。
雪崩の判断
積雪内部に弱層があるか、弱層がちょっとした刺激によって壊れるか否かは、ハンドテストやシャベルコンプラッションテストなどの弱層テストにより見極めることができる。
地形による判断
・雪崩が発生する傾斜は30~45度の斜面に集中しているといわれている。25度以上から発生する可能性はあり、45度を越える斜面では雪が積もる前にチリ雪崩として落下してしまう。
・尾根や稜線の風下側には雪庇ができやすく、雪庇の崩落を原因として雪崩が発生する。
・谷筋は雪崩が発生しやすい。
・木が生えていない、又はまばらな斜面、笹や草付き、ガレ場などのオープンな斜面
・積雪に凹凸がない平滑な斜面
発生要因 こんな日に注意!
・吹雪の中や降雪直後には、雪同士が結合する前に雪崩れやすい
・前日からの降雪が30㎝以上のとき
・強風のとき
・気温が急激に低下したとき
放射冷却により弱層が形成される
・南寄りの風などにより急激に気温が上昇したとき
特に春山の降雪後の登山日和の時に注意。気温の急激な上昇により弱層ができやすい。
・多量の雨が降ったとき
雪崩への対策
・雪崩は人為的に誘発されるケースが多い。斜面を横切る際は見張りをたてひとり一人が間隔をとって通過する。狭い斜面に複数人が同時に進入しないよう心掛ける。
・危険を感じるときは、ザックの腰ベルト、ピッケルバンド等を外す。
・ビーコン、ゾンデ、シャベルを持参する。使用方法は事前に訓練しておく。
雪崩埋没後の救出生存確率は、15分で90%、25分で50%、35分で25%といわれている。
・もしも雪崩に巻き込まれたら、「平泳ぎ」をするようもがくのがよいとされる。停止する直前では手で顔を覆いエアポケットをつくるようにする。
雪庇について
雪庇とは、尾根や稜線の風下側にできる雪の吹き溜まり。雪庇の発達状況は、尾根の形、風の向きや強さによってきまり、発達した雪庇は幅10m以上にもおよぶこともある。雪庇の上に登山者が乗ると少しの刺激で崩落する危険がある。雪庇の踏み抜きには要注意だ。中部山岳地帯では冬期の西寄りの風により、稜線の東側に出来ることが多い。
雪山での歩き方、アイゼン・ピッケルワークなどの雪山での基礎技術をまとめています。雪上技術については、事前の知識だけではなく、指導者の下、実践的な訓練を積み重ねることが大切です。
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