雪山の景色が見たい、夏山にある程度登ったので次は雪山を経験したい、シーズンを問わず登山がしたい、自身の限界に挑戦したい、雪面に自分のトレースを刻みたいなど雪山をはじめる動機は様々だと思いますが、雪山登山をはじめるに当たってご自身がどんな雪山に登りたいのかを今一度考えてみましょう。
低山なのか、2000m級の山なのか、3000m級の山なのか、雪原を歩きたいのか、森の中を歩きたいのか、森林限界を越えるような山なのか、急峻な岩場を登りたいのか、どんな雪山をイメージされていますか。
雪山登山=12本爪アイゼンとピッケルが必要と思われている方がいらっしゃいますが、軽アイゼン・チェーンスパイクやスノーシュー、ツボ足(何も滑り止めを付けずに雪道を歩くこと)でも雪山には登れます。ご自身がどういう雪山に登りたいかによって、準備する装備やスキル、必要な夏山経験や体力も違ってきます。また、雪山をはじめる時期はいつ頃が良いのでしょうか
12本爪アイゼンは、軽アイゼンやチェーンスパイクとは違い、登山靴との一体感が強くあり、前爪があることにより雪面へのグリップ力が強化されます。フカフカの雪や緩斜面では軽アイゼンやチェーンスパイクで充分ですが、凍結した急斜面や岩場の登下降、トラバースなどの場面で12本爪が効果を発揮します。
ピッケルは、杖としても使用しますが、これはあくまでもバランスを保持するための補助的な使い方で、本来の用途は転倒や滑落時の制動・停止や強風の際の耐風、急斜面や岩場での手掛かり等で効果を発揮するものです。従ってピッケルを持つということは、転倒したら滑り落ちてしまうような急斜面や強風が吹き荒れる樹林のない場所、森林限界を越える山、雪稜や急峻な岩場を登るということになります。このような雪山に登るイメージをお持ちですか?
ここでいう本各的な雪山登山とは、上記のような転倒したら滑落してしまうような雪山に登ることを意味しています。逆に言えば、そのような雪山に登るつもりがなければ、ピッケルなどは必要ありません。具体的には、赤城山、黒斑山、入笠山、北横岳、西穂の丸山などは、樹林帯の中の道を歩き、森林限界も越えず、急峻な岩場もないので、ピッケルはもちろん、12本爪でなくても軽アイゼンやスノーシュー等でも登れます。
上記のような状況を踏まえ、それでもピッケルを使用するような雪山を目指したいという方は、そのための準備段階を踏む必要があります。12本爪アイゼンを装着して急斜面を登ることは、想像以上に足に負担がかかり疲労します。ましてや強風にさらされ雪稜や急峻な岩峰を登るとなると相当な体力が必要となります。夏山を十分に経験され、登山装備やギアの取り扱いに慣れ、登山スキルや体力を養っておかなければ雪山には登れません。氷点下10℃以下の環境で、オーバー手袋をしたままで荷造りやストックをリュックに取り付けたり、アイゼンの装着などの作業を短時間で行わなければなりません。休憩も雪山では立ったまま短時間でエネルギーや水分を補給します。山頂でランチタイムなどということはまずありません。
以下のような夏山の経験と体力・スキルを有していることが本格的な雪山登山への入門条件と思ってください。
■登り3時間以上の山に日帰りで最低でも月2回以上の頻度で継続的に登山をされていること。
■森林限界を越える夏山の縦走やできればテント泊登山などの経験があること。
■残雪期や初冬の山で軽アイゼンでの歩行を経験していること。
■夏山をコースタイム以上で歩ける体力を有していること。
■夏山を4-5時間登り続けられる体力を有していること。
■雪山では登山道や道標は雪に覆われてしまうため、読図は必須のスキルと認識していること。
雪山入門者の方は、12月から1月頃に雪山を始めようとする方が多いように思います。2月頃まででないと積雪が少なくなると思っている方もいらっしゃるようです。この時期は厳冬期といって雪山では天候も変わりやすく、気温も低く、降雪によるラッセルも覚悟しなければならない最も過酷な時期になります。山の積雪量は2月下旬から3月が最も多くなります。雪山をはじめようとする方は3月~4月がおすすめの時期です。天候も安定し、日も長くなり、気温も上がり、雪質も締って歩きやすくなりリスクが軽減されます。雪山登山を始める時期も今一度検討してみてはいかがでしょうか。
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